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『壇蜜日記』(壇蜜)

壇蜜壇蜜日記』(文春文庫)

 収録作:表題作

 区分:エッセイ

 ※あらすじは省略します。タレント・壇蜜さんの日記です。

 

壇蜜日記』感想

 私は、壇蜜というタレントに対して真摯に向き合ってこなかったのだと痛感させられた。今までは「可もなく不可もなし」というエラそうな評価をしていたわけなのだが、一気に彼女を好きになった。我ながら単純であるが、半分も読まないうちに、彼女に感情移入をしてしまっていたのだ。

彼女の作品は高校生のころから愛読している。絵も文も大好きだ。しかし彼女のボーイフレンドらしき方が私を毛嫌いしているような記事を読んでしまった。これからこのトマト煮麺を作る度に思い出すであろう……「気色わるい」と言われたことを。その通りだから仕方ないが。

 彼女に感情移入をした私は、胸に突き刺さるような衝撃を、この文章から与えられた。きっと、あっさりと書いているけども泣きたいような思いだったのだろう。私だって、私が大好きな人の恋人から「気色わるい」なんて言われたら、泣きたくなってしまう。人に「気色わるい」と書く資格は、誰にもないというのに。もちろん「可もなく不可もなし」という評価をくだす資格だって、誰にもないのだけれど。

 ふだん、といってもこの本は五冊目なのだけど、ふだんの文体から少し壇蜜に影響された文体に変わってしまった。このブログはできるだけ作品の雰囲気に合った文体にしようと試みていたが、今回は意識せずともそうなっていた。恐ろしいことである。こんなに恐ろしい感染力を持った文章は、村上春樹くらいにしか書けないのではないか(実はこんなブログをやっているクセに、村上春樹の本を通読したことはないのだが)。

 話を戻そう。この作品には、珠玉の言葉が他にもある。たとえば、

遮るものがあるとゆがんだ業が顔を出しやすくもなる。例えば「匿名」という文字を身につければヒトはヒトに研がれた刃を向けることも簡単だ。匿名に託された保護への希望より、匿名の力から得る切り傷のほうが多いのは時代なのだろうか。ただ、切り傷を負っても私は武器を持たずに生きたい。

 賢く、強い女性だと思う。この本を手に取った切掛は『文學界』に掲載された「はんぶんのユウジと」を斜め読み(時間がなかったのだ。今度、作品集としてまとめられたら、きちんと買おうと思う)したというものなのだが、文章の端々に現れる知性にノック・アウトさせられた。「強い」という要素は、この日記を読んでから感じたこと。同時に脆く繊細な女性なのだろうと思う。硬度は高いけれど、脆いというダイアモンドにそっくりだ。

 荒んだ心に癒やしと思索を与えてくれる良著であろう。