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ネタバレしない読書ブログ

『UFO大通り』(島田荘司)

島田荘司『UFO大通り』(講談社文庫)

 収録作;「UFO大通り」「傘を折る女」

 区分;小説/ミステリ

 ※ネタバレはありません。

 

「UFO大通り」あらすじ

 お婆さんが、宇宙人が戦争をしているところを目撃したとテレビで証言をしたため、息子によって老人ホームへ入れられようとしていた。女の子は探偵の御手洗潔に助けを求める。お婆さんに話を聞きに行った私、石岡和己と御手洗は、宇宙人の戦争の2日前に、お婆さんの隣人が、天井にガムテーブがぎっしりとぶら下がった部屋の中で、シーツを身体に巻きつけ、ヘルメット・ゴム手袋・マフラーを装備して死んでいたのだと聞く。果たして、宇宙人の仕業なのか? 探偵・御手洗潔が、怪事件に挑む!

 

 

「UFO大通り」感想

 この中編の見どころは「石岡君が可愛い」ところである。もちろんこの中編自体、ミステリとして優れているのだが、この「御手洗潔シリーズ」は石岡君の可愛さで持っている部分も少なからずあると思うのだ。「宇宙人と戦争があった」と婆さんが証言した場所で、石岡君は、

 そして御手洗はがさがさと草地に入り込み、斜面をあがりはじめた。私は靴が汚れるし、なんだか気が進まなかった。それに宇宙人の戦争となれば、地面が未知の毒や細菌で汚染されてはいないものか。

「御手洗、ぼくも……」

「君も来るんだ!」

 ぴしゃりと言われ、私はしかたなく草地に足を踏み入れ、もぞもぞと斜面をあがりはじめた。

 繰り返すが、この作品はミステリ小説である。まあ本人としては深刻なのだろうが、それがまた笑いを誘うのだ。肝試しで怯える我が子を見る親の心情といえば良いのだろうか(子を持たないにも関わらず、このような心情になれるとは)。何というか、こう、可愛いのである。擬音もまたいい。「もぞもぞと」である。渋々と着いていくさまが思い描けるではないか!

 さて、石岡君の可愛さについてはまた次回にするとして、ミステリとしてはどうなのだろうか。男の死因が宇宙人の未知の毒があったらいかにも不可思議 ミステリであるが、謎解き小説ではない。正直に話せば、メイン・トリックを予測することは困難ではない。しかし細微まで張り巡らされた伏線と、メイン・トリックによって生じる様々な事象は極めて納得感の強いものである。

 私は御手洗潔シリーズに現在進行系でハマっているので、他の人が読んでも納得できるかは分からない。だが、氏の作品のほとんど全てに当てはまることだが、中編ミステリとして秀逸であることは間違いないだろう。

 

 

「傘を折る女」あらすじ

 私、石岡和己が視聴者参加型のラジオを聞いていると、リスナーから雨の中「傘を車に轢かせる女」を目撃したという内容の電話があった。いったい何故、雨が降っているのにも関わらず「傘を折る」必要があるのか? 探偵・御手洗潔はラジオの情報から、事件の臭いを嗅ぎ取って――

 

 

「傘を折る女」感想

 この中編の見どころは「石岡君が可愛い」ところである。……まあ落ち着いて、批判は引用部を見てから仰ってください。

「ふええ……」

 ね? 念のために書いておくと、石岡君はです。

 さて、天丼(?)は置いておいて、あらすじが「UFO大通り」よりも短いのは、手を抜いたためではない。この中編の魅力を伝えるには、これだけで充分だからだ。雨の日に傘を折る理由なんて、考えつくだろうか?

 驚くべきことに、御手洗はそんな僅かな情報から様々な事柄を推理してゆくのである。推理というのは"推"測によるわけなのだが、その推理が極めて論理的なのだ。そして的確。やろうと思えばあなたにだって、雨の日に傘を折る理由を導くことが出来るのだ。今、この場で。もちろん、別解を潰すための手がかりは本文にあるわけなのだが。

 ネタバレをしないという約束がある以上、これ以上詳しく書くのはマナー違反だろう。このブログの方針として点数を付けることはしないが、間違いなく人に勧めることの出来る作品である。