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『龍臥亭事件』上下(島田荘司)

島田荘司『龍臥亭事件』上下(光文社文庫)

収録作:表題作

区分;小説/ミステリ

※ネタバレはありません。

 
『龍臥亭事件』あらすじ

「あのう、石岡さん、霊感とか、信じます?」

 私、石岡和己二宮佳世という女性に導かれ、岡山の貝繁の、現在は営業を辞めている「龍臥亭」に泊まることとなる。だが、それは悪夢の始まりだった。ガラス張りに近い密室で、凶弾に撃ち抜かれる女性。部屋の中には人がいないことを目撃者が確認しており、壁にも傷はない。事件はこれだけではなく、龍臥亭の関係者は奇妙な形で殺されてゆき――。この奇妙な事件に終止符を打つため、私は外国にいる御手洗に手紙を出すが、御手洗は忙しくて来日できないといい、君なら解けると太鼓判を押す。果たしてワトソンはホームズになれるのか

 

『龍臥亭事件』感想

 前の『UFO大通り』では、私は散々、石岡くんが可愛いことを伝えてきた。だが、今回は石岡くんがかっこいいのである! ある人物を命を賭してでも守ろうとする。今までの逃げ腰の石岡くんではないのだ。

 石岡くんはこのときすでに四三歳。御手洗は石岡くんの三歳年上なので、四六歳という計算。ああ、すっかり歳を取ってしまったのだなあと感慨深い。私はオジサンが頑張っている姿を見るのが好きだから、特に応援したくなってしまう。御手洗といることですっかり自信を失った石岡くんが、自立する物語でもある。そりゃあ天才と二十年近く一緒にいたら、自信を喪失するだろうなあと納得するが、あの奇人とよくもまあ二十年も一緒にいられたものだ。それだけでも充分に誇れるだろうと思うのは、私だけだろうか。勿論、私は御手洗も大好きである。ふたり揃っての御手洗潔シリーズだと思っているくらいだが、それでも彼が変人であると、愛を持って断言できる。

 さて、トリックはといえばシリーズ初期に比べるとダイナミックさは減ったが、魅せ方はやはり現在の方がずっと上手い。いや、シリーズの初期からリーダビリティは群を抜いていたが、さらに成長している。そしてそれでも大きなスケール! 結論から言えば、津山三十人殺しが絡んでいるのだ。これは上巻で判明する事実であるし、Amazonのあらすじにも書いてあったと思うので、まさかネタバレにはあたるまい。いやはや、本当に面白かった面白かった本当に面白かった。上下合わせて千頁は越えていると思うが、まったく疲れを感じさせない。これは私が京極夏彦が好きだから、というわけではないと思う。もしかしたらそれもあるかもしれないが。まあある事件が偶発性に頼っているのは賛否両論だと思うが「暗闇坂」あたりで訓練されている読者なら許容範囲内であろう。……ちなみに、まだシリーズを全作読破をしているわけでもない私が僭越ながら読む順番を選んで良いのならば(あくまでも読む順番であり、作品の出来とは関係ない)、

①『占星術殺人事件』②『眩暈』③『斜め屋敷の犯罪』④『異邦の騎士』⑤『御手洗潔の挨拶』⑥『暗闇坂の人喰いの木』⑦『水晶のピラミッド』⑧『御手洗潔のダンス』⑨『アトポス』⑩『UFO大通り』⑪『龍臥亭事件』⑫『ネジ式ザゼツキー』⑬『Pの密室』

 という感じであろうか。『龍臥亭事件』は後半に読んでこそ面白さを発揮すると思う。石岡くんが出てこない話もいくつかあるが……。でも見れば見るほど豪華なリストなので、ひとつやふたつ、ちょっとなあ……と思うのがあっても騙されたと思って⑫までは読んでいただきたい。⑬はファンサービス的な要素が強いと思うので、賛否両論があることだろうから強制はしない。このブログを始めてから読み終えたもので、このリストにまだ三冊、感想を述べていないものがあるのだが、ずっと島田荘司について取り扱っていたらそれは単なる島田荘司のファンサイトなので、また時期を見計らって感想をまとめたいと思う。